かもめは本を読まない。

大好きなのは「日常の謎」。普段当たり前のように目にしている風景に、意外な切り口で迫っていく、その視点の鋭さに思わずため息が出ます。

「物語」を読んでもらえない彼女/野村美月『“文学少女”と恋する挿話集2(エピソード)』/感想/ファミ通文庫

 それでも私は彼にずっと恋していた。

 一気に二度読みしてしまった。前回の初戀といい、超傑作が続くなぁ。作者さんのライフワーク的作品になっているんだろうか。



 非常に重たい恋愛関係(ある意味命を賭した)が多い文学少女シリーズなので、本作に登場する森ちゃんと反町くんのバカップルっぷりはだいぶ癒されます。その一方でななせさんが初恋に敗れる一年をも追っているのが凄まじい。

 この別の人物から語られる「琴吹ななせ」というのが、実は本作の本題だったんだろうな、と思ったりします。作中では、ツンデレじゃない、あれはツンツンツンツン……フンっだ、デレがない、とまで言われてしまう彼女ですが、その実非常に可愛らしい内面を持っています。今回はそれが恋日記にて浮き彫りになったので、よりそのギャップに心を打たれましたよ。なんで、こんなに不器用なんだ。

 内面(空想)と現実のギャップをその人の「物語」を読むことで解消し、そして、現実へと立ち向かっていく様を描くというのが文学少女シリーズだと前回述べましたが、琴吹さんの場合なぜかこの「物語」を読んでもらえません。

 今回登場したネタ本はすべて「詩集」でした。

 ハイネもパイロンも中原中也もタゴールも、すべて詩人です。森くららさんとの恋に息詰まった時に、反町くんを助けてくれたこれらの詩人達ですが、その実すべて琴吹ななせさんのことを語っていたのではないかと再読して気がつきました。

 ハイネのように片思いに苦しんでいたのも、パイロンのようにうざったいまでに恋をしていたのも、中原中也のように三角関係に苦しんだのも、ななせさんです。タゴールの所だけ今ひとつぴんと来ないんですが、頑張った彼女への祝福の詩でしょうか。

 いずれにしても、今回の詩人シリーズでモチーフとされているのはすべて詩です。外伝だから「物語」じゃないのかなぁ、とも思いましたが、それにしても森ちゃんや反町くんには当てはまらない感じがします(中原中也など特に)。であれば、今巻の裏の主役琴吹さんではないだろうかと。

「物語」でなかったのは、彼女自身の物語がまだ残っているからだと思います。彼女自身の「物語」を読まれることでようやく彼女の初恋は終わるのでは、と。それは多分文学少女見習いの菜乃さんも同じなので、見習いシリーズで語られるのでは、と思ったり。琴吹さん同様、菜乃さんも相当「いい女」だと思っているので、楽しみです。あちらのシリーズもまだまだ見逃せませんね。次の傷心が発売される十二月が今から待ち遠しい。

“文学少女”と恋する挿話集 2 (ファミ通文庫)
“文学少女”と恋する挿話集 2 (ファミ通文庫)

→次巻は12月26日発売!

DVD付特装版"文学少女"見習いの、傷心。(ファミ通文庫)
DVD付特装版"文学少女"見習いの、傷心。(ファミ通文庫)

前回野村美月『“文学少女”見習いの、初戀』の感想へ
→次回野村美月『“文学少女”見習いの、傷心』の感想へ
野村美月『文学少女』シリーズの感想インデックスへ

野村美月『“文学少女”見習いの、初戀。』/感想/ファミ通文庫

「だって、この世で一番確かな愛の形は、一緒に命を終えることでしょう?」

 挿話集(エピソード)が本シリーズの補完ならば、この「“文学少女”見習い」は新機軸。紛れもなく、もうひとつの「文学少女」シリーズ。しかし、このシリーズでも琴吹さんの扱いがひどすぎてステキです。



 内面と現実のギャップに苦しんで、それでも自身の持つ内面の豊かさによって現実に負けることなく生きていく少女を描くのが「少女小説」ならば、この文学少女シリーズもあるいはその系譜を辿るのかもしれません。

 本シリーズにおけるギャップは、そのまま自身の空想(物語)と現実との間に横たわるものです。しかし、一つ本シリーズ特有のものがあるとすれば、ラストで語られる現実が「文学少女」シリーズでは天野遠子先輩、そして、この「見習い」シリーズでは井上心葉の「想像」である、という点ですね。メタ的に言ってしまえば、物語のイチ解釈にすぎません。毎回毎回モチーフとされる本があることによって、その説得力が増しているとはいえ、それは「想像」そのものです。ただの妄想です。

 もとより、各巻でクローズアップされる人物が信じている「現実」もまたそれぞれの「想像」に他ならないわけですが、それがゆえに彼らの現実は強固です。断片を繋げて自身で創りだしたものなので、そう簡単には崩せません。

 その一方で、それは創造された「物語」ですので、他の「読み」が可能であったりします。それらを行っているのが、遠子先輩であり、心葉くんです。

 ただし、そこで行われる「想像」が、作り手にとって必ずしも救いになるわけではない。今回芦屋朱里さんのように、信じたくなかったことかもしれません。

 嫌な現実を創造して磨耗しているのに、それよりもまた痛い「真実」を想像されるという二重苦です。特に今回はシリーズ第一作『“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)』とシンクロされるような構成になっているので、そこが顕著だったりします。


 もう死ぬしかない――


 というところまで行ってしまいます。内面と現実のギャップに耐えきれず、もはや現実へ向かい合う気をなくしてしまう。ですが、そこから始まる文学少女見習い、日坂菜乃さんの語りが素晴らしい。誰もが『曽根崎心中』内のことを考えている中、それを語った近松門左衛門本人に焦点を絞っていく。それはもちろん松本和くんと朱里さん自身のことでもある、と。

 これは僕たち読者たちも胸に刻んでおかねばならぬことでもありますが、ついつい物語を読むことに夢中になってしまい、その背後にいる作者のことを忘れてしまいがちです。そこを突いて、一気に朱里さんを引っ張り上げ、現実へと向かい合わせる菜乃さんは、もう立派に「文学少女」をやってる気がします。異論は認めない。

 そして、その姿勢はまた心葉くんの痛いところを突き出すんでしょう。彼の作家としての在り方は、未だ変わっていません。今回番外編で美羽が語るように、美羽の作家だったのが遠子先輩の作家になっただけです。その姿勢は近松門左衛門の姿勢とは大きく異なっている。

 これまたただの「想像」にすぎませんが、この作品の解釈を借りるならば、近松門左衛門相当すごい男です。「曽根崎心中」は実在する事件が元になっているということですが、これたぶん少なからず影響が出て、心中に憧れる人が出たんじゃないかなぁ、と。そこに事件から一ヶ月後にスピード公演する『曽根崎心中』ですよ。

 徳兵衛とお初が最後に聞く、鐘の音はいったい何だったのか。明日への象徴だったのではないかとまあ僕は思うんですが、それを寂しく聞いてしまう彼らは本当に幸せなのかと。ちゃんと真正面から、大衆をせき止めようと一石投じている。世間の風潮に流されていない感のある、近松門左衛門、かなり格好イイです。おれ、今ちょっと憧れてる。

 そういう作家として相当格好イイ在り方をしている彼に対して、心葉の作家としての在り方は正味微妙です。彼は今も昔も物語っているのではなく、告白しようとしている。それは別に空想の力を借りずとも、現実で事を成せるし、そうしなければいけないことでもあるので、やっぱり、おやっ?と感じてしまう。

 そこで強烈にアプローチしてくる菜乃さんの存在が生き生きとしてくるんですね。そして、何よりその現実が心葉には痛い。だから、大嫌いなんて言ってしまう。彼自身、意識的か無意識的かわかりませんけれど、わかっているんでしょう。

 だけど、これからも彼女は鬱陶しくつきまとってくるだろうし、作家に視野を広げた読み方をしてくる。それに対して心葉は何を思うのか。そして、いずれは菜乃さん自身も、心葉先輩に振り返ってもらえないという現実に立ち向かっていかねばならない。それはもちろん琴吹さんにも言えることで、彼女の物語が終わっていないのはそこが描かれていないからでしょう。

 そうした意味では、外伝といえどまだまだ終わっていない感のあるシリーズなので、これからも楽しみです。最後まで刮目してついていこうと思ってます。



“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)
“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)

→続編予約開始。DVDがついてます。

DVD付特装版"文学少女"見習いの、傷心。(ファミ通文庫)
DVD付特装版"文学少女"見習いの、傷心。(ファミ通文庫)


前回「“文学少女”と恋する挿話集1(エピソード)」の感想へ。
次回野村美月『“文学少女”と恋する挿話集2(エピソード)』の感想へ
野村美月「文学少女」シリーズの感想インデックスへ。

2010年劇場アニメ化決定/野村美月『“文学少女”と恋する挿話集1』/感想/ファミ通文庫

 ななせさんの放置っぷりが素晴らしい短編集。誤解を招きそうだけど、この主役になれない感じが、彼女を魅力的にしているような気がしてます。



 収録されている短編は合わせて、十本。以下個別に感想をば。

■“文学少女”と恋する牛魔王(ミノタウロス)

 ツルゲーネフの『はつ恋』をモチーフに描かれるのは、牛園たくみの華麗なる失恋劇。まともに文章も書けず、本も読めないとあっては、遠子先輩に見向きもされないのは当然ですが、これは……笑いが止まらない(笑)。ある意味涙なしには語れないエピソードになってます。最後おれには柔道部の仲間たちがいるんだー、ときれいにまとめている感じになってますが、まとまってません。それ現実逃避だから。

 遠子先輩と牛園の一方通行的な会話が面白いですが、本家のヴラジミールとジナイーダもこんな会話を繰り広げているんだろうか。ネタ本自体に興味がいく。

■“文学少女”と今日のおやつ〜『更級日記』〜

 『源氏物語』に憧れた少女菅原孝標女が晩年その日々を回想する形で描かれたのが今回のネタ本『更級日記』ですが、『文学少女』シリーズを読み終えたあとに読むと感慨深いショートショート。他人の恋を叶えたいと願ったあのポストを遠子さんはどんな気持ちで設置したのかと思うと、じーんと来る。

 また『更級日記』に限らず、一読した物語を再読してみると新たに見えてくるものがある。そういう普遍的な物語の楽しみ方を語っているのも好きな所。物語を読む楽しみに満ちているのが本シリーズ。

■“文学少女”と革命する労働者(プロレタリア)

 これは小林多喜二の『蟹工船』をモチーフにした作品ですが、うーん、悲惨なんだか悲惨じゃないんだかよくわかんない内容になってます。文芸部とボート部の「盟約」が果たされる、ある意味熱い作品。確かに皆の力を集めて革命を起こそうとなれば熱くならざるをえないものですが、それが筋骨隆々の男たちで描かれると、また違った熱さになってしまう(笑)。

■“文学少女”と今日のおやつ〜『万葉集』〜

『万葉集』から引用される「恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くして長くと思はば」が破壊力抜群。恋しくて恋しくて仕方がないのに、その言葉をかけられなかった遠子先輩のことを思うと、これは……ズルい(笑)。こんな詩を笑顔で口ずさまれたら、さすがに朴念仁の心葉くんも落ちます

■“文学少女”と病がちな乙女(クロエー)

 男の子って、好きな女の子にはおごりたいものだからなぁ、とにやにや読んでしまった。もちろん今井さんと木尾くんがそうとは限らないわけですが、やっぱりそういう風に読んでしまうし、それを求めてしまう。

 ロンゴスの『ダフニスとクロエー』を元に描かれているわけですが、もちろん読んだことがなく(苦笑)。どんどん読みたい本が溜まっていくのが、このシリーズ。

■“文学少女”と今日のおやつ〜『ムギと王さま』〜

 ファージョンの『ムギと王さま』が元ネタなんだけど、どうしてこの作品がチョイスされたのかわからなかったなぁ。読み込み不足だ。

■無口な王子(プリンス)と歩き下手な人魚(マーメード)

 小川未明の『赤い蝋燭と人魚』をモチーフに描かれるのがこのエピソードですが、この短編集ではこれがいちばん好き。
 ネタ本との絡み方が半端ないほどステキな気がする(原作を読んだことがないので、本エピソードで語られる範囲に関しては、ですが)。

 ようは、『赤い蝋燭と人魚』において、いったい誰がいちばん悲劇だったのか、というところですよ。もちろん人魚だろ、といいたいところでしょうが、僕は人魚の母親だったんじゃないかと思うわけです。まあ人魚を地上に置いてくる辺り育児放棄にもほどがあるんですが、彼女には娘の幸せのためという大義名分があった。それが崩れ去っていたとしたら? 海よりも地上の方が安全だという幻想を信じたからこそ娘を丘に置いてきたのに、そこは海よりも危険な場所だったという現実を知ってしまっていたとしたら? それはさながら、美羽の語った物語が嘘だと言われてしまった子供たちや芥川くんの強さが虚構だと知ってしまった時の美羽のように。

 それでも、人魚の母親は娘を迎えに行く勇気が持てなかったのではないかと、現実に飛び込んでいくべき一歩を踏み出せなかった。『赤い蝋燭と人魚』という物語を僕はそう読んだんですが、であれば、このエピソードはどうなのか?

 いわれのない言葉で傷ついてしまう現実を知った上で、美羽がそこに飛び込んでいく。少なくともそこに向かって歩き始める、そういうエピソードだったんじゃないかなぁ、と解釈してみたり。

■“文学少女”と扉のこちらの姫(レイデイ)

 多分「物語」を読むことで「現実」へと脱却するというのが、『文学少女』シリーズ全土に渡るテーマなんじゃないかと。上記のエピソードでようやく気がついたので、そういう意味では、ハインラインの『夏への扉』を元に姫倉麻貴が現実へと飛び出していくのが今回。麻貴の猫っぽさといい、扉というガジェットといい、すごく良いチョイスだなぁ。

■“文学少女”と浮気な予言者(ヨカナーン)

 ワイルドの『サロメ』のような、自分を殺(あい)してくれる人を探している流人ですが、それもやり過ぎると……。ななせ好きとしてはどうしても嫌なイメージを持ってしまうんですが、普通に落ち込んだりしてるのを見ると、なんか普通の子だなぁ、と(←騙されてる)。

■“文学少女”と今日のおやつ 特別編〜『スノーグース』〜

 もはや語るまい。



 ネタ本が十冊あっても一冊も読めてないのは驚きでした。またそっちも読んでから再読してみよう。

“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)
“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)

本を読むことも表現のうち/北村薫『北村薫の創作表現講義 あなたを読む、わたしを書く』

《分からない》というのも、一つの個性です。

 小説だけに限らず、演劇や映画、詩などにも通じる、広く「表現」そのものを扱った一冊です。直木賞受賞で今をときめく北村薫さんの「表現者」としての姿が垣間見えて、面白い。

 個人の裁量次第で色々拾える部分はあるかと思いますが、個人的に是が非でも拾いたいのは、次の二点かな。

 一つは「分からない」ということに対して。
 もうひとつは、「読む」という表現について。



 漠然と感じていたことではあるんですが、最近「分からない」ということに対して、我慢できない人が増えているんじゃないかなぁ、と。好きな人ができた! 仲良くなれたからすぐに気持ちを確かめなきゃ! とか。みんな面白いっていうけど、何が面白いのか分からん、ポイッとか。興味はあるけど、忍耐はない。

「分からない」ということを非常にネガティブに捉えている。その背後に何があるのかはすごく大きな話になりそうなので省きますけれど、「分からない」ことを良くは思えない。

 でも、そこで北村薫さんは「分からない」というのも一つの個性ですよ、と語る。分からない所も分かる所も人それぞれが持つ聖域で、何もかもが「分かる」人なんていない。自分自身、「グラン・パルティータ」という曲のすごさが分からない、と。でも、北村さんはいろんな人の「切れ」を拾える人だというのは、そこまで読んだ読者に分かっているので、なるほど、と。

 そして、問題なのは「分からない」ことではなく、「分かろうとしない」ことだと結びます。分からないからといって、自分には関係ないことだと遠ざけるなよ、ってことですね。そのとき分からないなら、とりあえず距離を置いて、また帰ってくればいいだろ。なんで諦めんだよ。

 まあ温厚な北村さんはそこまで言ってないですが、敬意を持って見つめれば見えてくるものもあるかもしれない、と言います。敬意というのは表現者に対する礼だけでなく、「興味」という部分もあったりするのかな、と思ったり。尊敬してたら、やっぱり興味ありますもんね。

 そういう姿勢で物事を見るのを忘れないようにしたいもんです。



「表現」や「創作」、幅広く言って「クリエイトする」と言われると、どうしても自身で作品をつくったりしなければと思うかもしれませんが、ここでは読むことも表現の一つだよ、と書かれていて、目からウロコでした。いや、漠然と感じていたんですが、すとんと落ちてきた。

 先の、分からない、分かる領域ってのは人それぞれという話からもわかりますが、同じものを読んでいても、まったく拾える部分は違うし、面白いと思う所は違いますよね。

 そういった部分からでも、
 いや、そういう部分があるからこそ、
 「自分」を表現できる。
 今こうして感想を書いているように。

 そう思えたら、どんどん表現していきたいな、と思えてきます。読書好きならば、やっぱり魅力的な物語や知恵を生む作者に憧憬を抱くもの。それと同じことが、他ならぬその本を読むことでできるなんて、ワクワクしてきますね。



 今挙げた二つは、どちらも最終章に書かれているので、最後だけでもちらっと立ち読みして、びびびっ!と来た人には、是非是非読んでもらいたいです。

北村薫の創作表現講義―あなたを読む、わたしを書く (新潮選書)
北村薫の創作表現講義―あなたを読む、わたしを書く (新潮選書)

とてつもなくまぶしいです/加納朋子『ななつのこ』/感想/書評/創元推理文庫

「だって……」
 私は口をとがらせた。「誰かの一番になりたくなっちゃったんだもん、しょうがないじゃない」


 最新作『スペース』を読んだあとに、改めて本作の表紙を見返すとにやにやしてしまいますね。「はやて」くんの隣にいるのは、「あやめ」お姉さんではなく、同じぐらいの年頃の少女で。

 誰かの一番。
 それはおそらくお互いがお互いにいちばん輝ける場所で。

 語り部の入江駒子がそーいうことを考えるのが、本作だと第三話の「一枚の写真」だけなんですが、駒子自身に関わらないところで、その人がいちばん輝く「居場所」を絡めたストーリーがいくつも編み込まれています。

 ひとつだけ拾ってみましょうか。

 第五話の「一万二千年後のヴェガ」です。
 これは、デパートの屋上にあったブロントサウルスが、一夜のうちに三十キロ近く離れた、保育園に移動したという謎を扱う、お話です。他のエピソードと同様にすばらしい解答が用意されているのですが、何よりもステキなのが、移動したブロントサウルスを見る、駒子の「目」です。

 彼女は、デパートの屋上にあった時よりも、保育園で園児たちと戯れている方が、ブロントサウルスが嬉しそうだと言うんですね。その人が(この場合はものですが)、いちばん輝いている場所ってここだったんだな、と彼女は考えるわけです。もちろん見る人によっては、ただの感傷に過ぎないんでしょうが、僕は駒子さんのこういうところが好きなんですね。

 手紙のやり取りをする作家の佐伯綾乃さんも、途中で似たようなことを言いますが、駒子さんの目を通して見ると、ありふれた風景が突然輝いて見える。

 灰色がかった日常が、いつの間にか色彩豊かになっていくような。

 僕から(というか、読者から)見たら、とてつもなく駒子さんは輝いているように見えるのに、彼女は気づかないわけです。だからこそ、最初に引用した台詞のように、誰かの隣で輝いてる自分を欲したりもしてみる。誰かのいちばんになれば、自分も輝けるかな、って。

 そんな子の隣にいられる人はとてもしあわせだろうな、と今は思うわけですよ。だから、このシリーズというのは、駒子が輝いてる自分(=「居場所」)を発見すると共に、その輝きにまいった(笑)男が色彩を取り戻すお話でもあるんだろうな、と。

ななつのこ (創元推理文庫)ななつのこ (創元推理文庫)
著者:加納 朋子
販売元:東京創元社
発売日:1999-08
おすすめ度:4.5

血の人形の行方/桜庭一樹『私の男』/感想

「親子のあいだで、しちゃいけないことなんて、この世にあるの?」(腐野花)

「近親相姦」を扱った直木賞受賞作ですが、読後はただただ切なかった。自分の身に起こる、自分にはどうしようもできない大事からどうにかできる小事まで、何もかもに「血」という理由付けをしなければいけなかった「血」の人形たる花の生涯は暗く、悲しい。

 時系列を逆にすることで、自身の養父であり「父」であり「私の男」である淳悟と出会うところで終わるのが実に憎らしい。光が差す――けれど、それまでを読んできた読者にとっては虚構の光だとわかっている――ラストに、思わず夢を見てしまった。淳悟と出会うことで、彼女が幸せに生きていけるのではないかと幻想するが、それまでに花が淳悟との近親相姦によって失ってきた何もかもを見てきているので、その思いはすぐに止まる。ちょっと絶望的。

 ちょっとした課題になっていたので、何度か読み直しましたが、何度読んでもこの絶望感がたまらない。イイ作品だと思います。

私の男私の男
著者:桜庭 一樹
販売元:文藝春秋
発売日:2007-10-30
おすすめ度:3.5

「さよなら」をありがとう/桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』/感想

 必要に迫られて、桜庭一樹さんを集中読書してるんですが、本作『少女七竈と七人の可愛そうな大人』がすげー面白かった。読み終わったあと、思わずため息が出てしまうほどうっとり。

“いんらん”の母を持つ、遺憾ながらも美しく生まれてしまった少女、川村七竈をメインに綴られる、この物語は、帯に書かれているような「圧倒的に悲しい」だけでは、きっと、ない。

 この圧倒されるような余韻は、悲しさだけではなく、清清しさもまた秘めている。七竈の実はあまりにかたく、苦く、そして美しい。それが故に鳥たちは食さず、冬になっても美しいままただ揺れている。それはただ「朽ちる」運命だと、語られ、少女七竈の運命もまた朽ちるだけなのかと、彼女と共に読者も諦めてしまう。

 それがどうだろうっ!

 あのラストシーン。七竈や雪風の運命のように、鉄道模型(ワールド)の中をぐるぐると回り、どこへも行き着くことができなかったキハ八兆Mが世界を飛び出していく。彼らもまたどこかへと去っていく。

 その読後感といったら、ただ悲しいだけでは、きっと、ない。
 
→しばし待て。今月二十五日に文庫化です。

少女七竈と七人の可愛そうな大人少女七竈と七人の可愛そうな大人
著者:桜庭 一樹
販売元:角川グループパブリッシング
発売日:2009-03-25
クチコミを見る

森博嗣『銀河不動産の超越』/感想

 毎日がなんとなく気怠い“省電力”青年・高橋は、惨敗続きの就職活動の果てに「ここだけはやめておけ」と言われた銀河不動産に入社した。「いろいろ見せてもらううちに住みたい家が見えてくる」という曖昧な資産家夫人や、「寝ている間に日光浴したい」というミュージシャン、「スウィングしている部屋に住みたい」という芸術家等々に部屋を斡旋しているうちに、彼自身がとんでもない家に暮らす羽目に……。無気力青年・高橋はサラリーマン生活をまっとうできるのか? 極上のユーモア・エンターテインメント!

 久しぶりに森博嗣が本気を出したという噂と「省エネ青年」という帯のコピーが気になって、読んでみた。シリーズものはもう随分と下火になっているという印象を受ける作者ですが、ノンシリーズは面白いなぁ。最近読んだ作品の中でも、屈指の面白さですよ。読了後、ちょっと温かい気持ちになれる。ホントにイイ。てか、森博嗣さんって、こういう作品も書けるんだー、って感動したよ。もっと書いてほしい。

 タイトルからどんな作品か想像しづらいと思うんですが、ひょんなことから無駄に広い部屋に住むことになってしまった「省エネ青年」高橋の物語で、その部屋を手に入れてから一変していく彼の生活を平素な文体で描いていた作品です。

 そして、その文章から生み出される、流れる時間の操り方が上手いうまい。最初は、高橋の省エネ的な側面が出ているせいか、非常に緩やかに物語が進むわけですよ。それが、仕事が忙しくなったり、交友関係が広がったりすることで、どんどん加速していって、ラストには……、という展開に痺れましたよ。

 そういう技巧的な面もさることながら、各話で(連作短編の形式を取ってます)出会う人たちと高橋との交流に笑わせてもらったり、ラストのアレにはじんわり来たり、イイ作品だった。これは、きっといつか読み返すんだろうなぁ。

→銀河不動産の超越

西澤保彦『謎亭論処』/感想

 女子高の正門前に車を停め、夜の職員室に戻った辺見祐輔は憧れの美人教師の不審な挙動を垣間見た。その直後、机上の答案用紙が、さらに車までもがなくなった。ところが二つとも翌朝までに戻されていた。誰が、何のために? 辺見の親友であり、酒に酔うほど冴え渡る酩酊探偵・匠千暁に相談すると……。続発する奇妙な事件を、屈指の酒量で解く本格推理の快感!

 久しぶりに表紙のデザインにズゴーッとなってしまいましたが、不満点はそれぐらいであとはいつもの、謎があり、酒があり、みんなでわいわいと謎解きをしていると、終いには意外な真相が明るみに出ているという、タック&タカチシリーズ。

 次々と浮かび上がる推論の応酬に、相変わらず唸ります。傍目から見ると、酒を飲んでわいわい喋っているだけなんだけど、その中でいろんな推論が浮かんでは消え、浮かんでは消え、そして、最後に……というのが、好きすぎる。扱っている題材の多くが殺人事件ということで、酒宴の肴としてはどうなのか、と思う向きもあるけれど、自分でもこういうのを書きたいんだよなぁ。というわけで、大満足。

 それでも、この短編集に収録されている多くは、あの『依存』を経て、それが「四人の物語」ではなく「二人と一人と一人の物語」にすぎないとウサコやボアン先輩が感じ取ったあとの物語なので、寂しさを感じないといったら嘘になる。いや、まあ、僕はタックとタカチの関係が好きなので、それ自体は良いんですが、やっぱり四人組の物語が読みたいなー、と。そう言う意味では、「印字された不幸の手紙の問題」とか「新・麦酒の家の問題」なんかが良かったよ。

 この勢いでタック&タカチシリーズをすべて制覇するか!と意気込んでいたら、このシリーズ、幻冬舎で再文庫化される予定があるらしいので、そちらで再読しようかと思います。幻冬舎文庫なら、多分「鈴木成一デザイン室」が表紙デザインを担当するだろうし、それならば万に一つも不満はないだろうし。

謎亭論処―匠千暁の事件簿 (祥伝社文庫 に 5-3)

西澤保彦『七回死んだ男』/感想

 度々一日を九回繰り返す「反復落とし穴」に嵌ってしまう少年、大庭久太郎が、その日落とし穴に嵌ってしまったことから悲劇は始まる。オリジナルの周で死ななかったはずの祖父が死んだのだ。どうして? 一体誰が? キュータローこと久太郎は、限られた時間の中、真相究明と祖父の死亡を阻止しようと奮闘する。

 西澤保彦さんの作品の中でも、傑作中の傑作。SFとミステリーの融和を許容できる人には、誰でもお勧めできる類の作品。というか、SFミステリー好きなら、僕が紹介するまでもなく、読んでいない人はいないっていうレベルの傑作。これを読まないのは損。是非、読んでくれい。

 一度読んだことがある作品で、その時も唸ったんだけど、今回改めて読み直して、唸る唸る、ひたすら唸ってました。本当に面白い作品です。八回やり直しがきくので、キュータローはひたすら祖父を救出すべく、毎回毎回あれやこれやと策略を巡らせるんですが、次から次へと違う容疑者が浮かび上がって来るという、コミカルな展開で読ませます。この理由も、ちゃんと明かされるのでご心配なく。すべてが明るみに出た時、「おお!」と感嘆をあげることでしょう。

 そして、「反復落とし穴」に落ちるため実年齢より大人びいている久太郎の、淡い恋の行方も要チェックです。ですが、「青春だなぁ」とはいえません、色んな意味で(笑)。

 完全に、西澤さんに嵌っちゃったので、一気に読み直すかも、という感じの感想でした。

七回死んだ男 (講談社文庫)
ブログ検索
Google


Web を検索
ブログ内検索
profile
◆管理人
 →かもめ
◆メール
 →gull_and_book<アットマーク>yahoo.co.jp
◆当ブログについて
 →はじめに
◆その他のブログ
サブカル・カムカム(メインアニメ感想ブログ)
かもめは意外とゲームが好き。
『狼と香辛料』ファンブログ

◆mixi
 mixiに参加しています。こちらからどうぞ。管理人が何者か多少わかるかも。
アクセス解析








当ブログでは、ブログ経営の参考とするため、「NINJA TOOLS」さんのアクセス解析を採用しています。どうぞ、ご理解の程をよろしくお願い申し上げます。
Web拍手




お気軽にコメントをお寄せください。管理人が喜びます。
Amazon


1500円以上のお買い物で送料無料
Amazonをご利用の際には、是非こちらからどうぞ。応援よろしくお願いします。
Recent TrackBacks
  • livedoor Readerに登録
  • RSS
  • livedoor Blog(ブログ)