「そんな顔しないで。そのうち必ずきみの心を動かすような女性が現れる。縁というのは人智を超えているからね。例えば……」
 弥生が手を離すと、崇の頬のうえをすきま風が通り抜けた。
「今、あそこを歩いて行く女の子がそうかも知れない。あの可愛い子」


 今回のテーマはまさに「初恋」、そして、ヘンな「縁」。
 あの朴念仁、桑原崇(以降タタルさん)にも淡い初恋の思い出があり、そして、失恋の思い出があった。その相手によって、「縁」づけられた人が、今タタルさんの目の前にいて、タタルさんを想っているという、ハチャメチャな後付け設定に僕大満足。
 その他にも、非常にバカバカしい(褒め言葉です)接点が、タタルさんと棚旗奈々さんにはありまして、久しぶりに『QED』が楽しく読めましたよ。やっぱり、ある程度「はったり」が効いていた方が「QED」は面白いなぁ。


・九段坂の春

 あの論理武装した朴念仁、タタルさんの初恋エピソード。相手は女性教諭ということで、やっぱり少しマセてます(笑)。

「男根」とか平気で言ってのけるタタルさんが、ある和歌の解釈に耳たぶまで赤くして、あわてて俯く姿(当時中学生)に、不覚にも萌えてしまった。なんか普通のちょっと賢い中学生をやっているタタルさんが可愛くて仕方ないぞ(笑)。さすがにタタルさんが可愛いと思う日が来ようとは予想だにしなかったなぁ。これだから、世の中面白い(笑)。

 前書きにも書きましたが、五十嵐弥生さんによって縁づけられた相手というのが、奈々さんということで(一緒にいたのが詩織ですね)、関係が少しは進展してほしいですね。
 こういう後付け設定なら、全然アリ。「縁」という語り口が、らしくてまた良い。

「那智瀧の冬」で現代のタタルさんと弥生さんが再会すると思っていたので、それだけは少々残念かも。

・北鎌倉の夏

 昔から歴史を探究するものにヒントを与えていたことが判明した奈々さんの初恋エピソード。

 不覚にも(読む前に)パラッと開いたところが、このお話のラストだったので、見知らぬ男に奈々さんのファーストキスを奪われたのに、憤怒したのはナイショだっ! なんて嘘っぽい告白を白々しくしてみる(笑)。もちろん「嘘」ですよ(くしゅん!)。

 楠木正成のお話に関しては、次回辺りフォローが入りそうな感じでしょうか。間接的に、タタルさんを高校生の奈々さんが知るというお話でしたが、これもまた一つの「縁」と思うと、奈々さんの婿さんになるのはタタルさんしかいない感じです。

・浅倉寺の秋

 タタルさんと出会う前の小松崎良平(以降熊つ崎さん)の初恋エピソード。……このお話だけは、最後に繋がらなかったよね?(ちょっと自信なさげに)

 熊つ崎さんがはじめて発見した「嘘」が、自分のものだったというのが、普通に切なく、格好良い。

 ここで、再登場した鴨志田翔一くんは、次回辺りジャーナリストとして登場しそうな感じ。詩織さん辺りと「縁」がありそうですが……、うーん、伏線というか、もう出ていたりして(人間関係を毎回忘れる常連読者だったりします)。……ああ、そうか。熊つ崎もジャーナリストだから、そちらの方の「縁」でしょうか。今回熊つ崎のエピソードで登場したのもそういうこと?

・那智瀧の冬

 ちょっと判断に迷ったんだけど、弥生さんの「似たもの」発言と今回はエピソードを「初恋」に絞っているようなので、これも御名形史紋の初恋エピソードだと理解。相手がタタルさんと同じく、弥生さんというのが面白い(というか、タタルさんと御名形さんの類似性を出そうとしているんでしょう)。
 本シリーズ随一の朴念仁キャラを二人とも手玉に取るなんて……、五十嵐弥生、いや、桜月弥生……、恐るべし(笑)。

 これを皮切りに、御名形さんが奈々さんにアプローチしていって、ようやくタタルさんが動き出すという流れになりそう(ベタベタだなっ!)。



 一応「歴史物」なのに、まったく歴史に言及しない辺り、とことん歴史音痴だなぁ、と大いに反省。というか、基本的に固有名詞(特に普通の名前)を記憶できない人間なので、登場人物の人間関係に毎回困惑し、それどころじゃない、という情けないシリーズファンだったりします。

 好きなんだけどなぁ、歴史自体は。




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