ななせさんの放置っぷりが素晴らしい短編集。誤解を招きそうだけど、この主役になれない感じが、彼女を魅力的にしているような気がしてます。
◇
収録されている短編は合わせて、十本。以下個別に感想をば。
■“文学少女”と恋する牛魔王(ミノタウロス)
ツルゲーネフの『はつ恋』をモチーフに描かれるのは、牛園たくみの華麗なる失恋劇。まともに文章も書けず、本も読めないとあっては、遠子先輩に見向きもされないのは当然ですが、これは……笑いが止まらない(笑)。ある意味涙なしには語れないエピソードになってます。最後おれには柔道部の仲間たちがいるんだー、ときれいにまとめている感じになってますが、まとまってません。それ現実逃避だから。
遠子先輩と牛園の一方通行的な会話が面白いですが、本家のヴラジミールとジナイーダもこんな会話を繰り広げているんだろうか。ネタ本自体に興味がいく。
■“文学少女”と今日のおやつ〜『更級日記』〜
『源氏物語』に憧れた少女菅原孝標女が晩年その日々を回想する形で描かれたのが今回のネタ本『更級日記』ですが、『文学少女』シリーズを読み終えたあとに読むと感慨深いショートショート。他人の恋を叶えたいと願ったあのポストを遠子さんはどんな気持ちで設置したのかと思うと、じーんと来る。
また『更級日記』に限らず、一読した物語を再読してみると新たに見えてくるものがある。そういう普遍的な物語の楽しみ方を語っているのも好きな所。物語を読む楽しみに満ちているのが本シリーズ。
■“文学少女”と革命する労働者(プロレタリア)
これは小林多喜二の『蟹工船』をモチーフにした作品ですが、うーん、悲惨なんだか悲惨じゃないんだかよくわかんない内容になってます。文芸部とボート部の「盟約」が果たされる、ある意味熱い作品。確かに皆の力を集めて革命を起こそうとなれば熱くならざるをえないものですが、それが筋骨隆々の男たちで描かれると、また違った熱さになってしまう(笑)。
■“文学少女”と今日のおやつ〜『万葉集』〜
『万葉集』から引用される「恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くして長くと思はば」が破壊力抜群。恋しくて恋しくて仕方がないのに、その言葉をかけられなかった遠子先輩のことを思うと、これは……ズルい(笑)。こんな詩を笑顔で口ずさまれたら、さすがに朴念仁の心葉くんも落ちます。
■“文学少女”と病がちな乙女(クロエー)
男の子って、好きな女の子にはおごりたいものだからなぁ、とにやにや読んでしまった。もちろん今井さんと木尾くんがそうとは限らないわけですが、やっぱりそういう風に読んでしまうし、それを求めてしまう。
ロンゴスの『ダフニスとクロエー』を元に描かれているわけですが、もちろん読んだことがなく(苦笑)。どんどん読みたい本が溜まっていくのが、このシリーズ。
■“文学少女”と今日のおやつ〜『ムギと王さま』〜
ファージョンの『ムギと王さま』が元ネタなんだけど、どうしてこの作品がチョイスされたのかわからなかったなぁ。読み込み不足だ。
■無口な王子(プリンス)と歩き下手な人魚(マーメード)
小川未明の『赤い蝋燭と人魚』をモチーフに描かれるのがこのエピソードですが、この短編集ではこれがいちばん好き。
ネタ本との絡み方が半端ないほどステキな気がする(原作を読んだことがないので、本エピソードで語られる範囲に関しては、ですが)。
ようは、『赤い蝋燭と人魚』において、いったい誰がいちばん悲劇だったのか、というところですよ。もちろん人魚だろ、といいたいところでしょうが、僕は人魚の母親だったんじゃないかと思うわけです。まあ人魚を地上に置いてくる辺り育児放棄にもほどがあるんですが、彼女には娘の幸せのためという大義名分があった。それが崩れ去っていたとしたら? 海よりも地上の方が安全だという幻想を信じたからこそ娘を丘に置いてきたのに、そこは海よりも危険な場所だったという現実を知ってしまっていたとしたら? それはさながら、美羽の語った物語が嘘だと言われてしまった子供たちや芥川くんの強さが虚構だと知ってしまった時の美羽のように。
それでも、人魚の母親は娘を迎えに行く勇気が持てなかったのではないかと、現実に飛び込んでいくべき一歩を踏み出せなかった。『赤い蝋燭と人魚』という物語を僕はそう読んだんですが、であれば、このエピソードはどうなのか?
いわれのない言葉で傷ついてしまう現実を知った上で、美羽がそこに飛び込んでいく。少なくともそこに向かって歩き始める、そういうエピソードだったんじゃないかなぁ、と解釈してみたり。
■“文学少女”と扉のこちらの姫(レイデイ)
多分「物語」を読むことで「現実」へと脱却するというのが、『文学少女』シリーズ全土に渡るテーマなんじゃないかと。上記のエピソードでようやく気がついたので、そういう意味では、ハインラインの『夏への扉』を元に姫倉麻貴が現実へと飛び出していくのが今回。麻貴の猫っぽさといい、扉というガジェットといい、すごく良いチョイスだなぁ。
■“文学少女”と浮気な予言者(ヨカナーン)
ワイルドの『サロメ』のような、自分を殺(あい)してくれる人を探している流人ですが、それもやり過ぎると……。ななせ好きとしてはどうしても嫌なイメージを持ってしまうんですが、普通に落ち込んだりしてるのを見ると、なんか普通の子だなぁ、と(←騙されてる)。
■“文学少女”と今日のおやつ 特別編〜『スノーグース』〜
もはや語るまい。
◇
ネタ本が十冊あっても一冊も読めてないのは驚きでした。またそっちも読んでから再読してみよう。

“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)
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収録されている短編は合わせて、十本。以下個別に感想をば。
■“文学少女”と恋する牛魔王(ミノタウロス)
ツルゲーネフの『はつ恋』をモチーフに描かれるのは、牛園たくみの華麗なる失恋劇。まともに文章も書けず、本も読めないとあっては、遠子先輩に見向きもされないのは当然ですが、これは……笑いが止まらない(笑)。ある意味涙なしには語れないエピソードになってます。最後おれには柔道部の仲間たちがいるんだー、ときれいにまとめている感じになってますが、まとまってません。それ現実逃避だから。
遠子先輩と牛園の一方通行的な会話が面白いですが、本家のヴラジミールとジナイーダもこんな会話を繰り広げているんだろうか。ネタ本自体に興味がいく。
■“文学少女”と今日のおやつ〜『更級日記』〜
『源氏物語』に憧れた少女菅原孝標女が晩年その日々を回想する形で描かれたのが今回のネタ本『更級日記』ですが、『文学少女』シリーズを読み終えたあとに読むと感慨深いショートショート。他人の恋を叶えたいと願ったあのポストを遠子さんはどんな気持ちで設置したのかと思うと、じーんと来る。
また『更級日記』に限らず、一読した物語を再読してみると新たに見えてくるものがある。そういう普遍的な物語の楽しみ方を語っているのも好きな所。物語を読む楽しみに満ちているのが本シリーズ。
■“文学少女”と革命する労働者(プロレタリア)
これは小林多喜二の『蟹工船』をモチーフにした作品ですが、うーん、悲惨なんだか悲惨じゃないんだかよくわかんない内容になってます。文芸部とボート部の「盟約」が果たされる、ある意味熱い作品。確かに皆の力を集めて革命を起こそうとなれば熱くならざるをえないものですが、それが筋骨隆々の男たちで描かれると、また違った熱さになってしまう(笑)。
■“文学少女”と今日のおやつ〜『万葉集』〜
『万葉集』から引用される「恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くして長くと思はば」が破壊力抜群。恋しくて恋しくて仕方がないのに、その言葉をかけられなかった遠子先輩のことを思うと、これは……ズルい(笑)。こんな詩を笑顔で口ずさまれたら、さすがに朴念仁の心葉くんも落ちます。
■“文学少女”と病がちな乙女(クロエー)
男の子って、好きな女の子にはおごりたいものだからなぁ、とにやにや読んでしまった。もちろん今井さんと木尾くんがそうとは限らないわけですが、やっぱりそういう風に読んでしまうし、それを求めてしまう。
ロンゴスの『ダフニスとクロエー』を元に描かれているわけですが、もちろん読んだことがなく(苦笑)。どんどん読みたい本が溜まっていくのが、このシリーズ。
■“文学少女”と今日のおやつ〜『ムギと王さま』〜
ファージョンの『ムギと王さま』が元ネタなんだけど、どうしてこの作品がチョイスされたのかわからなかったなぁ。読み込み不足だ。
■無口な王子(プリンス)と歩き下手な人魚(マーメード)
小川未明の『赤い蝋燭と人魚』をモチーフに描かれるのがこのエピソードですが、この短編集ではこれがいちばん好き。
ネタ本との絡み方が半端ないほどステキな気がする(原作を読んだことがないので、本エピソードで語られる範囲に関しては、ですが)。
ようは、『赤い蝋燭と人魚』において、いったい誰がいちばん悲劇だったのか、というところですよ。もちろん人魚だろ、といいたいところでしょうが、僕は人魚の母親だったんじゃないかと思うわけです。まあ人魚を地上に置いてくる辺り育児放棄にもほどがあるんですが、彼女には娘の幸せのためという大義名分があった。それが崩れ去っていたとしたら? 海よりも地上の方が安全だという幻想を信じたからこそ娘を丘に置いてきたのに、そこは海よりも危険な場所だったという現実を知ってしまっていたとしたら? それはさながら、美羽の語った物語が嘘だと言われてしまった子供たちや芥川くんの強さが虚構だと知ってしまった時の美羽のように。
それでも、人魚の母親は娘を迎えに行く勇気が持てなかったのではないかと、現実に飛び込んでいくべき一歩を踏み出せなかった。『赤い蝋燭と人魚』という物語を僕はそう読んだんですが、であれば、このエピソードはどうなのか?
いわれのない言葉で傷ついてしまう現実を知った上で、美羽がそこに飛び込んでいく。少なくともそこに向かって歩き始める、そういうエピソードだったんじゃないかなぁ、と解釈してみたり。
■“文学少女”と扉のこちらの姫(レイデイ)
多分「物語」を読むことで「現実」へと脱却するというのが、『文学少女』シリーズ全土に渡るテーマなんじゃないかと。上記のエピソードでようやく気がついたので、そういう意味では、ハインラインの『夏への扉』を元に姫倉麻貴が現実へと飛び出していくのが今回。麻貴の猫っぽさといい、扉というガジェットといい、すごく良いチョイスだなぁ。
■“文学少女”と浮気な予言者(ヨカナーン)
ワイルドの『サロメ』のような、自分を殺(あい)してくれる人を探している流人ですが、それもやり過ぎると……。ななせ好きとしてはどうしても嫌なイメージを持ってしまうんですが、普通に落ち込んだりしてるのを見ると、なんか普通の子だなぁ、と(←騙されてる)。
■“文学少女”と今日のおやつ 特別編〜『スノーグース』〜
もはや語るまい。
◇
ネタ本が十冊あっても一冊も読めてないのは驚きでした。またそっちも読んでから再読してみよう。

“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)
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