「だって、この世で一番確かな愛の形は、一緒に命を終えることでしょう?」

 挿話集(エピソード)が本シリーズの補完ならば、この「“文学少女”見習い」は新機軸。紛れもなく、もうひとつの「文学少女」シリーズ。しかし、このシリーズでも琴吹さんの扱いがひどすぎてステキです。



 内面と現実のギャップに苦しんで、それでも自身の持つ内面の豊かさによって現実に負けることなく生きていく少女を描くのが「少女小説」ならば、この文学少女シリーズもあるいはその系譜を辿るのかもしれません。

 本シリーズにおけるギャップは、そのまま自身の空想(物語)と現実との間に横たわるものです。しかし、一つ本シリーズ特有のものがあるとすれば、ラストで語られる現実が「文学少女」シリーズでは天野遠子先輩、そして、この「見習い」シリーズでは井上心葉の「想像」である、という点ですね。メタ的に言ってしまえば、物語のイチ解釈にすぎません。毎回毎回モチーフとされる本があることによって、その説得力が増しているとはいえ、それは「想像」そのものです。ただの妄想です。

 もとより、各巻でクローズアップされる人物が信じている「現実」もまたそれぞれの「想像」に他ならないわけですが、それがゆえに彼らの現実は強固です。断片を繋げて自身で創りだしたものなので、そう簡単には崩せません。

 その一方で、それは創造された「物語」ですので、他の「読み」が可能であったりします。それらを行っているのが、遠子先輩であり、心葉くんです。

 ただし、そこで行われる「想像」が、作り手にとって必ずしも救いになるわけではない。今回芦屋朱里さんのように、信じたくなかったことかもしれません。

 嫌な現実を創造して磨耗しているのに、それよりもまた痛い「真実」を想像されるという二重苦です。特に今回はシリーズ第一作『“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)』とシンクロされるような構成になっているので、そこが顕著だったりします。


 もう死ぬしかない――


 というところまで行ってしまいます。内面と現実のギャップに耐えきれず、もはや現実へ向かい合う気をなくしてしまう。ですが、そこから始まる文学少女見習い、日坂菜乃さんの語りが素晴らしい。誰もが『曽根崎心中』内のことを考えている中、それを語った近松門左衛門本人に焦点を絞っていく。それはもちろん松本和くんと朱里さん自身のことでもある、と。

 これは僕たち読者たちも胸に刻んでおかねばならぬことでもありますが、ついつい物語を読むことに夢中になってしまい、その背後にいる作者のことを忘れてしまいがちです。そこを突いて、一気に朱里さんを引っ張り上げ、現実へと向かい合わせる菜乃さんは、もう立派に「文学少女」をやってる気がします。異論は認めない。

 そして、その姿勢はまた心葉くんの痛いところを突き出すんでしょう。彼の作家としての在り方は、未だ変わっていません。今回番外編で美羽が語るように、美羽の作家だったのが遠子先輩の作家になっただけです。その姿勢は近松門左衛門の姿勢とは大きく異なっている。

 これまたただの「想像」にすぎませんが、この作品の解釈を借りるならば、近松門左衛門相当すごい男です。「曽根崎心中」は実在する事件が元になっているということですが、これたぶん少なからず影響が出て、心中に憧れる人が出たんじゃないかなぁ、と。そこに事件から一ヶ月後にスピード公演する『曽根崎心中』ですよ。

 徳兵衛とお初が最後に聞く、鐘の音はいったい何だったのか。明日への象徴だったのではないかとまあ僕は思うんですが、それを寂しく聞いてしまう彼らは本当に幸せなのかと。ちゃんと真正面から、大衆をせき止めようと一石投じている。世間の風潮に流されていない感のある、近松門左衛門、かなり格好イイです。おれ、今ちょっと憧れてる。

 そういう作家として相当格好イイ在り方をしている彼に対して、心葉の作家としての在り方は正味微妙です。彼は今も昔も物語っているのではなく、告白しようとしている。それは別に空想の力を借りずとも、現実で事を成せるし、そうしなければいけないことでもあるので、やっぱり、おやっ?と感じてしまう。

 そこで強烈にアプローチしてくる菜乃さんの存在が生き生きとしてくるんですね。そして、何よりその現実が心葉には痛い。だから、大嫌いなんて言ってしまう。彼自身、意識的か無意識的かわかりませんけれど、わかっているんでしょう。

 だけど、これからも彼女は鬱陶しくつきまとってくるだろうし、作家に視野を広げた読み方をしてくる。それに対して心葉は何を思うのか。そして、いずれは菜乃さん自身も、心葉先輩に振り返ってもらえないという現実に立ち向かっていかねばならない。それはもちろん琴吹さんにも言えることで、彼女の物語が終わっていないのはそこが描かれていないからでしょう。

 そうした意味では、外伝といえどまだまだ終わっていない感のあるシリーズなので、これからも楽しみです。最後まで刮目してついていこうと思ってます。



“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)
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DVD付特装版"文学少女"見習いの、傷心。(ファミ通文庫)
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